既存建築は建築普請の所有者が、自ら良質な木材を手に入れ自らの手で建てつつある際に他者に引き渡された木造住宅でした。今では使えないような一枚板の桧などの木材の表情や空間構成などを読み解きながら、お住まいになられる方の生活の中に写真や美術品が自然にあるライフスタイルを触発するようなプランニングを、話し合いを重ねてつくり上げてきました。
施主であるご夫婦は、時間をかけて収集された家具や照明、アートなどをお持ちであり、どれも素晴らしい表情で、統一された美意識がございました。それらの再利用を前提として、既存建築とも調和させていくという繊細な作業でした。そこで、墨モルタルや彩色和紙など、新旧の間をつなぐような素材選びを行うことで、調和と同時に空間の刷新を図りました。このような自然由来の素材は、経年変化を許容し、住まい手の生活に馴染んでいきます。再利用した収納家具の高さに合わせた洗面台や、蚤の市で手に入れられたタイルを施工した水回り、お持ちのステンドガラスを明かり取りとして再利用したトイレ、既存の格天井に仕込んだ照明など、いくつもの場所が、施主・設計者・既存建築のセッションによってつくられています。
DKについては、使い勝手を配慮しフルオーダーメイドのキッチンに加え、立派な大判の木材を利用したカウンターを設計しました。浴室は、桧の羽目板に対し、濡れ色の表情が美しい十和田石を腰壁まで設けることで、ホテルの浴室のような設えとしています。写真現像用の暗室については、光が入らぬよう、既存土壁の隙間を埋めたり、既存障子にマグネットシートを貼るなど、暗室用塩ビシンクを製作し、特殊なご要望にも応えていきました。
時期 | 2022 |
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設計 | 前田茂樹 中野照正 |
施工 | かしの木建設株式会社 |
所在地 | 千葉県大網白里市 |
撮影 | 繁田諭 |