いまでも心に残っている建築があります。フィンランドの南端の町パイミオにある、建築家アルヴァ・アアルトによって1933年に建てられた結核患者の療養所です。北欧のデザインと言えば、カラフルなファブリックや食器、照明、家具などが有名ですが、この建築家は「環境」をデザインしているのです。
パイミオの療養所は結核の患者さんが、日光に当たり栄養を取りながら体力を蓄え療養していく場所です。結核にとって空気が汚れていない環境は重要です。ここでの照明はデザインが優れているだけではなく、照明と天井面の間に隙間をつくらないようなデザインとなっており、照明上部に埃が溜まらないようにしています。見た目のデザインをよくするだけではなく、「必要なこと」をデザインしています。
患者さんの大部屋も、カーテンのデザインや壁の色使いが北欧らしく優しく美しい。けれどもそれだけではなく、お見舞いの方が手を洗う部屋の中にあるシンクの角度でさえも、水音が気にならないよう細かな心遣いが設計に盛り込まれています。ちょっとした気遣いがあり、患者さんや働く人の「日常の解像度を上げる」デザインをしています。このアルヴァ・アアルトの建築は、建設後80年が経過している現在でも、結核患者用ではありませんが療養所として使われ続けています。
永く使われ続けるデザインとは、土地や使う人との関係性を繋いでいくものではないかと思います。きれいに永く使いたいと思ってもらえるような、人を包む環境デザインは、その土地の文化となり、文化がそこに住む人々の誇りへと繋がります。
ジオ−グラフィック・デザイン・ラボ
代表 前田茂樹
私たちのミッションは、建築や家具がつくりだす内外の領域が、その場所にすでにある領域や風景と新たな関係をつくり、場所の価値を再定義することです。場所の価値や可能性を、建築家としての経験から見出し、ともに考え、ご提案します。その建築や事業が実現し、日常に定着するところまでしっかり寄り添うことが私たちの存在意義です。
土地の歴史・法規・事業計画・将来の社会情勢などを踏まえて、基本計画から運営方針まで一貫する仮説ビジョンを立てて建築や環境デザインの設計を行います。その建築や環境デザインをもとに、関係者との丁寧な対話プロセスを通して、皆で共有するビジョンを定義していくことで、場所の価値の再定義を行います。